その男が最終列車に乗り込んで来た時の印象は得になかった。
列車が走り出し、私は窓に映る闇をぼーっと見ていた。
「すみませんが」
気がつくと男が私の側に立っていた。
「何ですか?」私は答えた。
「こんなことを聞くなんて不審に思われるかもしれませんが、
あなたの年齢をお教えくださいませんか?」
私は黙って男の顔を見ていた。
相手の意図がわからなかったからだ。

男は力無く微笑むと、
「では、僕から言いましょう。あなたの年齢は27歳ですね?」
私はより警戒した。何故私の年齢を知っているのか。
「あなたの顔を見れば分かります」
そう言ってお辞儀を一つして、他の乗客のところへ向かった。
そして一人一人、乗客に声をかけると、
私とのやりとりで面倒臭くなったのか最初のプロセスを省き、
「あなたは○○歳と違いますか?」
との質問を繰り返した。そして全てが正解だった。
乗客の間ではこの余興に盛り上がった。
トリックがどのようなものかは分からないが、
男は人の年齢を当てる才能を持っていた。

見ていると、初老の男がその男のところへ歩いていく。
「すみませんが、私の年齢は分かりますか?ちょっと難しいですよ」
男は初老の男の年齢も当てた。
「凄い!当たりです。でもあと5分で58ですがね」
初老の男が言うと、列車内が沸いた。
おめでとう。乗客の一人が言った。
「それにしても、あなた、凄いですね。年齢当て百発百中じゃないですか」
私が言うと、男は力無く笑った。

「僕には、人の年齢を当てる能力なんて有りません。
僕には、人の死ぬ年齢が分かるだけです。
そして、今日この列車に乗り込んでみると、
全ての乗客の死亡年齢と、今の見た目の歳がほぼ同じに見えた。
なので不思議に感じて、皆様の年齢を確かめさせて戴いたのです。
――この列車、あと15分は走り続けるんでしたよね…」
男はそれだけ言うと、黙り込んでしまった。
私は初老の男の言っていたことを思い出していた。
あと5分で58になると。
男の能力を信じるなら、初老の男の寿命は57歳。
誕生日を迎えられないことになる。
腕時計を見る。
あれから2分が経っていた。
あと3分の内にこの列車に何か起こるのだろうか。
何しろ乗客全てが寿命を迎えているのだから。
腕時計の秒針から私は目が離せなくなった。
「あと3分か……3分…」
そうしている間にも、
最終列車は乗客を乗せ、より暗い闇に向かって走っていく――。
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